ソーシャルイントラプレナー:リコーの志チーム

このブログの中では、情報収集&発信と並行して、企業の中で実際に活動する「イントラプレナー(社内起業家)」へのインタビュー記事も紹介していこうと思います!!  第一回目となる今回は、株式会社リコーの「志チームができるまで」と題して、メンバーの紹介と社内イントラプレナー達がいかにつながり、チームの発足に至ったか、またそこから見えてくるネットワークの重要性について考察を加えたいと思います。


☆そもそも、(ソーシャル)イントラプレナーって何?

(ソーシャル)イントラプレナー(社会社内起業家)とは、企業などの組織に属しながらも、その企業の力を社会問題の解決に活かそうと活動している人々のことです。僕達はよく、企業を一人の人間であるかのように固有名詞で呼び、その中の個人の多様性への関心が薄れる傾向があるように感じています。

しかし、実は欧米などの先進的な事例の多くは、企業の中で社会課題に対して疑問を持ち、自社の力をつかってそれを解決できないだろうかという個人の思いが原動力となって生まれてきたことが分かってきました。08年に出されたこちらのレポートなどでも、それらの事例を扱っています。(これは別途、このブログの中で紹介していきたいと思います)

余談になりますが、この連載を通じて、「志」という火を心に灯しながら活動を続ける人達が企業内にもいることを、少しでも多くの人に知ってもらいたいと思い、今この投稿を書いています。それが、心に火を宿しながらも次の一歩を踏み出せずにいる企業人、またその火を持ってこれから社会へ飛び立とうとする学生達に、勇気と少しの道筋を与えるものになればと、そんなことを考えています。

そんな思いを背景に、これから4回の連載では株式会社リコーの「志チーム」の活動を取り上げたいと思います!! リコーの「志チーム」は新規事業部、技術関係者、そしてCSR室の出身者がコアメンバーとなり、BOPビジネスを通じて自社が貧困問題の解決の担い手になるという志の下、2008年10月に発足しました。当初は一部の社員の「志」から集まった小さな活動でしたが、インドでのBOPビジネス調査など現在ではリコー社内での大きな動きへと発展しつつあるようです。

第一回目となる今回は、リコーの「志チームができるまで」と題し、メンバーの紹介と社内イントラプレナー達がいかにつながり、チームの発足に至ったか、またそこから見えてくるネットワークの重要性を紹介していきたいと思います。


志チームのメンバー達

志チームは個々のメンバー、強い問題意識を兼ねそろえたイントラプレナー(社内起業家)達が、繋がったことで生ました。

チームの座長は「これからの自分と会社にとって大事な領域は何か」と考えている中、BOPビジネスの考えを強く認識するようになり、このプロジェクトを始めました。また、リコー入社後、海外青年協力隊でバングラディッシュを訪問した経験を持つ社員や、リコーを一度退職後、NGOに籍を置き、イラクとアフガニスタンでの復興支援活動を経て再びリコーに戻った社員などがおり、彼らは自身の経験から今いるリコーで貧困問題に関して何かできないだろうかと常々考えていたそうです。こうした社会的なミッションを持つメンバーに加え、ビジネスマインドでBOPビジネスを冷静に見つめるメンバー、また「攻めのCSR」を掲げるCSR室長、商品企画を経験してきたメンバーも加わり、バランスのとれたチームができている印象を受けました。

さらに、メンバーの一人は「顧客の要求の背後にある社会的背景まで洞察できるかどうかがビジネスにおいて大きな違いをもたらし得る。また社会との接点をつかめば、仕事のモチベーションも上がる*」と言います。志チームの活動は、顧客の持つ社会的要請にも敏感になることを可能にし、その要請に応えることが仕事にやりがいを与え、生産性や満足度の向上に寄与しているのです。


チームができるまで つながるネットワーク

こうした志あるイントラプレナー達がつながったことで「志チーム」が生まれたわけですが、実際にチームが生まれるまでには、社内社外でのネットワークの紹介が重要な役割を果たしていたようです。

社内で「BOP事業に興味がある」と声を上げることで、他の社員を紹介され、ネットワークがつながる。インタビューの中でも、「~さんの紹介がなかったら出会ってなかった」と振り返ることがあり、社内ネットワークの重要性をチームの中でも再認識する場面がありました。

社内ネットワークは同じ志を持つメンバー同士を結び付け、更に社外へと広がり、組織の枠を超えて人を結びつけ外部からのナレッジを企業にもたらす。こうした人と人、組織と組織との間につながりが生まれていくことが可能となる背景には、そこに共通のミッションがあるからなのかと思います。

技術関係者とCSR室のメンバーとでは、普段の業務の間に共通項は見つけにくいかもしれません。また企業とNPOという組織単位で考えた時、そこに共通のミッションを見出すのは難しい。しかしイントラプレナー達には組織という枠組みを超えて個人の間で共有されるミッションがあります。それはBOPビジネスの文脈では貧困問題の解決やサステイナビリティという形で共有され、描くミッションに共通するものがあるからこそ、そこにつながりが生まれていく。そしてそのつながりが経営層を巻き込むことが、BOPビジネスを生み出すための土台となるのです。


☆社内、社外ネットワークの重要性

BOPビジネスを進めるにあたり、社内、社外のネットワークが重要なものとなる。日本総合研究所の槌谷詩野氏は、この網目のような人のネットワークを「生態系」という言葉で表現されます**。イントラプレナーは既存の組織の枠組みを超えて、他の組織とつながろうとする。そこに生まれる同じミッションを共有したもの同士の間に生まれるつながり、「生態系」がBOPビジネスにおいて重要になってくる。リコーの志チームはその例の一つと言えるでしょう。

チームのメンバーもネットワークの重要性を認識しています。社外でのNPOメンバーとのつながり、大学関係者とのつながり、ミッションを共有する他企業のイントラプレナーとのつながり、それがあってこそ今の活動があるそうです。また、チームが生まれるまでの社内ネットワークに加え、志チームには社長に直接アクセスできる社内ネットワークを持つメンバーがいたことも、重要な役割を果たしていたようです。

次回以降にも紹介していきますが、志をビジネスの言葉に変えて経営層を説得することで、チームはインドへのBOP事業への第一歩を踏み出すことに成功しました。チームメンバーは、「志チーム」が単なる「カルト集団」で終わってしまう可能性もあり、経営層も巻き込んだリコーのビジネスへと昇華させていくための社内向けインセンティブを掲示する必要も認識していました。社内ネットワークを通じて社長までアクセスし、そこで経営層のインセンティブにも適う形でBOP事業の必要性を説得したのです。

今回は、リコーの「志チーム」の紹介と発足までの背景を追い、そこからネットワークの重要性について紹介しました。次回は、いかに志をビジネスへ落とし込むか、チームがどのような道筋を持って経営層を説得していったかを追ってみたいと思います。


脚注
*藤井敏彦 新谷大輔 『アジアのCSRと日本のCSR』日科技連 2008年
このメンバーの言葉は、こちらの著書の中でも紹介されているので、合わせて紹介しておく。CSR的な視点がなぜ重要なのか、非常に示唆に富む内容となっている。
** 槌屋詩野:『BOPビジネスのアクター達』国際開発ジャーナル5月号 2010年