リコーの「志チーム」② 社内説得の秘訣!?

この連載では、株式会社リコーのBOP志チームの活動を連載企画として取り上げています。第一回目はこちらから!!
「社会の課題を解決しながら、リコーも企業として成長したい」という志を具現化するためには、志をビジネスの言葉に置き換えて社内を説得していく必要があります。今回はチームがこれまでに行ってきた社内説得の道筋の一部を取り上げ、そこからイントラプレナーがミッションを実現していくためのヒントを探していきたいと思います!!

  • 志チームの社内ネットワークの存在
  • 社内説得のための説明① 「持続性」と「事業の成長」
  • 社内説得のための説明② BOPビジネスの副次的リターン
  • 社内説得のための説明③ 有無を言わせない「創業の精神」



  • ☆志チームの社内ネットワークの存在

    前回の投稿でも紹介しましたが、コアメンバーの中には社長や経営層との直接のつながりを持つメンバーや、CSR室と新規事業部、技術関係の部署など部門の枠を超えての人脈を持つメンバーがいました。こうしたメンバーの持つネットワークを通して初めて、志をビジネスにしていくための社内説得の基盤を作ることができたのです。イントラプレナーにとって、まずはこうした社内ネットワークを築くことが最初のステップと言えます。

    ☆社内説得のための説明① 「持続性」と「事業の成長」

    社内の説得のためには、志をビジネスの言葉に置き換えていく必要があります。リコーの志チームはまず、BOPビジネスに取り組む「背景」「意義」「目的」をリコー経営者の解釈で捉え直しました。

    リコーという会社が永続的に発展していくには、「持続性」と「事業の成長」が欠かせない。そのためには①社会的責任を果たすこと、②最も変化・成長している領域でチャレンジすること、つまりイノベーションを起こし続けて絶えず変化すること、この二つが必要だと理解していました。

    BOPビジネスへの取り組みは、この必要性に応えるものであり、リコーの永続的発展に欠かせないものと言えます。「社会の課題を解決しながら、リコーも企業として成長したい」という志を、「リコーという会社が持続的に成長していくために必要なビジネス」という解釈に置き換えたです。


    ☆社内説得のための説明② BOPビジネスの副次的リターン

    企業がBOPビジネスに取り組むことで得られる副次的リターンは多いと言えるでしょう。以下メンバーに紹介して頂いたリターンを、私見を加えつつ紹介していきたいと思います。

  • 新しい市場が開拓
  • 未来の市場にリコーのファンを作れる
  • 新たなマーケティング手法の獲得

  • 第一に、新たな潜在的巨大市場への参入という点です。そこから利益を得られるようになるまでは10年以上の期間を要するとも言われますが、事前にその国の中にブランドを定着させることなどが副次的リターンとして挙げられます。またBOPでの市場アプローチは主にマーケットアウト、顧客のニーズありきのマーケティングであり、現地に土着化した形で顧客ニーズを探る手法を学ぶ場にもなると言えるでしょう。

  • 人材育成
  • 士気の高い優秀な人材が確保維持できる
  • 若い社員が元気になる
  • 希望、夢、感動、幸せの充足感ある暮らしが広まる

  • 第二に、人材に関する副次的効果です。CSRとも通じますが、一般的に社会性を重視する企業が優秀な人材を引き付けるようになってきています。これは志チームメンバー自身が「社会とのつながりが今の自分やメンバーのモチベーションとなっている」と語ることにも集約されていると言えます。ダニエルピンクのモチベーション3.0が話題となっていますが、BOPビジネス等の持つ「社会性」が携わる人材の士気を高めることに一役買っているのです。

    人材に関して、BOPビジネスの研究者L.S.Hartは大聖堂と石切りの青年の話を取り上げています。石を切っている3人の青年に、「何をしているのか」と尋ねた。一人は「石を切っている」と答え、また一人は「生計を立てている」と答えた。そして三人目の青年はこう答えた、「大聖堂を建てている」。

    BOPビジネスを通して、貧困問題の解決や持続可能性という大聖堂を建てながら仕事をすることに、従業員は働くことの意味を見出しているのかもしれません。哲学者の田坂広志氏もまた、こうした思いを持った働き方が今の日本に足りていない点を指摘しています*。

  • 顧客ロイヤリティが向上する
  • 株主や投資コミュニティなとからのブランド価値が高まる

  • 人材に限らず、BOPビジネスを通して社会課題に取り組む姿はリコーの顧客や投資家からも評価を得られる可能性を持っています。BOPビジネスに取り組むことがブランド価値の向上に寄与するかは実証が必要かもしれませんが、CSRの視点と同様に、その社会性は魅力的に映るでしょう。日本ではBOPビジネス関係投資銘柄という面白い動きもあるようです**。

  • BOPでの展開に必要なNPO/NGOなどとのネットワークの早期構築が可能
  • 未解決の環境社会課題への対応が進む

  • BOPビジネスやサステイナビリティに先進的な企業は市民社会セクターとのネットワークの点で優れています。ユニリーバを例に挙げてみましょう。BOPビジネスへの取り組みに限らず、ユニリーバは長い月日をかけてOxfamのような国際的NPOとの信頼関係を築いてきました。こうした連携が近年は発表されたPoverty Footprint (ビジネスの貧困社会に与える影響を把握するためのツール***)の開発にも発展しており、BOPビジネス含め、企業が途上国と関わっていくための基盤を築いているのです。

    またリコーのような製造業企業の例を取るならば、ヒューレットパッカード(HP)は外せません。2000年初め、当時のCEOフィオリーナはプラハラードやハートの著書に感銘を受けてBOPビジネスへの取り組みに着手したといわれます****。HPはe-inclusion戦略を掲げ、自社の製品の届いていない90%の人々をターゲットにしていくことを決めたのです。

    志チームでかつてHP製品と同じ製品群の商品企画を担当していたメンバーは、HPのBOPへの取り組みが途上国における彼らのマーケティングであることを知りました。そしていかに自分たちが顧客の背後にある社会の動きに鈍感かに気付いたと言います。BOPビジネスを通して、顧客の背後にある社会の姿が見えてくるようになる。それがまだ見ぬ社会課題の早期発見と対応につながり、その重要性を感じつつあると。

    こうした副次的効果を羅列することについて、「人によって”刺さる”ポイントが違う」からとメンバーは話します。志をビジネスにするための社内説得ですが、経営層や各部門、またおのおのの個人にとってBOPビジネスに取り組むことの「背景」「意義」「目的」は違ってきます。こうした説明は多くの人の関心を引き付け、企業内での活動の拡大に寄与しているのです。


    ☆社内説得のための説明③ ‐有無を言わせない、創業の精神‐

    最後に、リコーの創業の精神を思い出させることで、BOPビジネスへの取り組みに正当性を持たせることができるはずです。リコーの創業者、市村清の創業の精神は、以下のような「三愛精神」を掲げていました。

    人を愛し:客様や社員だけでなく、あらゆる人を大切にする
    国を愛し:地球、社会を大切にする
    勤めを愛す:自らの仕事に誇りとやりがいを持って取り組む

    こうした「三愛精神」はリコーがBOPビジネスを通して貧困層という新しいお客様と、地球社会に対して、誇りとやりがい持って仕事をすると解釈できる。このように創業の精神を解釈し直すことで、現在の経営陣に有無を言わせないのだ。

    創業の精神に立ち戻ることは、リコーに限らず多くの企業にとっても当てはまる論理です。例えばユニリーバの創業者、ウィリアム・リーバは社会起業家であったと言われます。産業革命後、貧困と環境汚染の拡大する英国で人々の健康な生活と従業員の安定した雇用の創出を目指していたのです。

    リーバは石鹸ビジネスを通して、国内に清潔な生活を広めただけでなく、ポートサンライトという労働者用の居住区域の提供を行ったとされています。こうした創業の精神が今でもユニリーバの活動の根幹を築いており、BOPビジネスの先駆的な取り組みの土台となっていたのです。

    またリコーに限らず、日本の製造業創業者の精神とBOPビジネスの「社会性」には密接な関係があります。例えば松下電機の創業者、松下幸之助は「水道哲学」を掲げ、水道の水のように電化製品が普及することで人々の人生の幸福に貢献することを説きました。また「利益とは社会に貢献した証であり、それを社会に還元せよと世の声である」と諭しています。同じように、リコー創業者の市村清も「儲けるのではなく、儲かる」、つまり人のためになるものを作れば自然と儲かると語っています。

    創業の精神は企業の中に脈々と語り継がれています。それに改めて目を向けることで、経営層にも有無を言わせないBOPビジネスへ取り組む意味を見出せるかもしれません。


    脚注
    *「BOPビジネス関連銘柄」http://money.minkabu.jp/8377
    **田坂広志氏の論文はこちらより拝読できるので併せて紹介しておく。
    http://www5.cao.go.jp/entaku/shiryou/100425forum/100425shiryou.html
    ***Poverty Footprint http://www.oxfam.org/en/policy/poverty-footprint
    Oxfamがユニリーバと連携して作成したもの。このメルマガでもその要旨要約をBOPビジネスの文脈と合わせて紹介していきたいと思う。
    ****HPのBOPビジネスへの取り組みに関して、ピアスキーのこの著作に詳しい。
    Piasecki, Bruce. World, Inc. how the growing power of business is revolutionizing profits, people and the future of both. Naperville, Ill: Sourcebooks, Inc., 2007. Print.(邦題「ワールドインク」英治出版より) http://www.worldincbook.com/

    1. 2010年 11月 1日

    コメントを残す