ビジネスと社会セクターの革新的な連携とは??

営利企業のビジネスとミッション性の強い個人、そして組織によるコラボレーションの重要性が説かれるようになっている。今回は、アショカのビルドレイトンも執筆しているHBRの記事「The New Alliance for Global Change」と、それに関するNextbillionの記事、そして「The New Pioneers」という文献を通して、このビジネスと社会セクターとの革新的な連携の潮流についてまとめていく。(今回は和約記事ではなく、統括的なまとめ記事なので、詳細は各リンクを参照してください!!)

  1. 「The New Alliance for Global Change」要旨
  2. Nextbillionより「 How are Hybrid Value Chains different from CSR, BoP, Inclusive Business?」
  3. The New Pioneers 要旨

アショカのビルドレイトンはHVRでの記事「The New Alliance for Global Change」の中で、営利的企業と市民社会組織(CSOs)との協働による、ハイブリッドバリューチェーンの構築の重要性について説いている。

ハイブリッドバリューチェーン(HVC)を築くことによって、営利企業と市民社会セクターは、グローバル経済を変え、永続するソーシャルイノベーションを生み出すことができる。ビジネスは規模と起業家、そして資本を提供する。社会起業家は、より低いコスト、強い社会ネットワーク、そして深い顧客とコミュニティへの理解を提供することができる。以下はHVCの4つの基準である。

  • ビジネスのスケーラビリティ
  • 営利企業と社会起業家とが多様な価値を共創すること
  • 広義での顧客が製品サービスに対価を払うこと
  • 従来の仕組みを変えるような、新たな市場を作り出すアイデア

HVCはビジネスとCSOの共同によって、大きなシステムの変化を生み出す。その変化は市場におけるゲームのルールを変えながら、リスクとリターンを明確にして「価値」の再定義を可能にする。

住宅市場を考えてみよう。現在世界の人口の6人に1人がスラムや無法地帯で生活している。10億人もの人々が、住宅市場へのアクセスから遮断されてしまっているのだ。もしあなたがセメント企業だったのならば、もし住宅材の生産者なら、もし銀行家なら、開発者なら、考えてみよう。あなたのビジネスにとって、1兆ドル規模の手つかずの市場はどんな意味を持つだろうか?? 今まではビジネスが孤立していたために、これらの市場に参入していくことは不可能だと考えられていた。既存のコスト構造や現地市場に対する限られた理解によって、これらの市場にアクセスすることはできなかった。それらは彼らの仕事ではなかった。政府やCSOがそれらの役割を担っていた。

しかし、それが今変わりつつある。例えば、南米のColceramicaはセメントや家庭用製品の低所得層市場について学びたいと考え、人権に関する市民社会組織Kairosと共にビジネスプランを立てた。同社が製品、技術やビジネスノウハウを提供し、Kairosは代わりに、販売員のマネジメントを行った。働き口のなかった女性を販売員として雇用することで、Colceramicaは低コストでその販売網を広げ、またKairosとしても、女性に雇用を提供することができる。このプログラムはViste Tu Casa (あなたの家を飾る)と呼ばれて、2006年に始まった。2009年にはその売り上げは1200万程になり、28,000人の女性の生活水準を向上させ、179人の販売員女性は月に230ドル稼ぐようになった。

HVCは営利企業にとっても参加のインセンティブがあることは明らかである。HVCを築くビジネスは、その投資に対して以下のようなリターンを期待できる。

  • 利益:HVCは多くの成長機会を提供する。Ex. 途上低所得層には衛生やエネルギー分野で総額533億円ドル規模の市場が眠っているとされている。
  • ナレッジ:HVCのパイオニア達は、後追いする企業をしり目に多くのことを学び始めている。そして、そこでの経験から得たナレッジを、新たな市場環境へと応用している。Ex. GEの「リバースイノベーション」
  • 人材獲得:HVCでは、ビジネスチャンスを発見し、創造的な解決法を生み出し、多様なパートナーと共同する能力を有した起業家が必要とされる。こうした人材を育成、獲得する場がHVCである。

アショカではこうしたHVCの重要性を説き、従来の市場ルールを書ける、ビジネスシステムのイノベーションを起こそうとしていると言える。

また以下は、このHBRでの投稿に関するNextbillionへの投稿の一部である。

これまで、企業とCSOの共同や対話は非常に限られたものあった。しかし、ここ30年程して、CSOもまた、起業家精神、競走性、効果性などのビジネス的な手法を用いるようになった。そしてこの変化が、CSOと従来のビジネスが共同で行う新たなビジネス機会を生み出している。

HVCとBOP、そして包括的ビジネスはビジネスとして、低所得層における規模の拡大を目指している点でゴールを共有している。これらのアプローチはどれも営利性による事業の持続可能性と規模の拡大性、効果性とインパクトを狙っている。CSRにおけるプロジェクトでも、従来の法令順守や環境負荷削減といった守りのCSRに変わり、市場開発型、包括的サプライチェーンの構築による競走優位といった新しいCSRへの関心が高まっている。

HVCをとして、アショカはFull Economic Citizenshipを促進している。社会的インパクトは、デザインから需要まで、ビジネスモデルを組み立てるときには欠かせない要素である。営利的企業と市民社会セクターは、HVCを通して市場システムを変えるような革新的な役割を担っていくことができる。それは企業にとって、既存の製品を応用するような限定的なものではなく、消費者意識の変化、教育やコミュニティの参加も伴っての社会変革のプロセスに携わることである。アショカはチェンジメーカーのコミュニティを成長させることで、今後数年の間にこうした、ビジネスシステムを抜本的に変えるような機会をみつけていくだろう。

このように、民間企業と市民社会セクターとの協働によるビジネスと社会課題の解決の可能性への関心は確実に高まっており、CSRやBOP、包括的ビジネスといった潮流もこの動きと並行して捉えなくてはならない。それぞれ言葉は違えども、多くの要素を共有している。

最後に、「The New Pioneers」という文献の一節を紹介したい。

この文献は、社会的企業の分野を長年研究してきた著者が現在ビジネス界に起きている14のパラダイムシフトを紹介したもので、その中にはアショカやBOPビジネスについても取り上げられており、こうしたビジネスの潮流を統括的にまとめている。

その中で、既存のビジネスと社会起業家とが織りなす新たなパートナーシップのあり方が紹介されている。それは「イノベーションラボ」としての社会起業家と、そのイノベーションの「加速装置」としての企業という役割だ。

社会起業家は、小さい規模から始まり、社会のニーズに的確に答え、そして現地リソースを活用した事業を立ち上げる。彼らは、絶えず挑戦を繰り返し、社会課題の解決に資するビジネスの「イノベーションラボ」としての役割を果たしているのだ。しかし、この時点では社会的インパクトも限定的なものになってしまっている。そこで、社会起業家の事業が一度成功すると、次には既存の企業がそのイノベーションの「加速装置」として、大きな社会的インパクトを生み出していくための触媒になれる。企業には資金、規模、技術といったリソースがある。しかし、企業が単体で現地コミュニティの問題の解決に貢献することは難しいため、イノベーションの加速装置としての役割を担っていくことが必要になる。

社会起業家と営利企業のパートナーシップには様々な形があるが、最も顕著なものは社会起業家が事業を売却するケースかもしれない。Ben&Jerry’sやBody Shopなどが事例として挙げられるが、彼らは自身の事業をUnileverのような大企業に売却するも、その事業のミッションを生かしたまま、Unieverという大企業を通して社会起業家としての役割を果たしている。Ben&Jerry’sのメンバーはインタビューの中で、売却したことではじめて他の企業と同じようなビジネスになることができたと言う。(詳細は同著参照)


The New Pioneersで取り上げられているこうした事例は、HVCやBOPでも同様に起きている変化であると言える。

小さな規模で、現地により土着化して現地ニーズを満たしている社会起業家や市民社会組織、彼らとの革新的な連携を通じて、新たな事業機会と、そして大きな社会的価値を生み出すビジネスが生まれている。この変化の潮流を捉える事が重要であると考える。

経営組織論者のピーターセンゲは、シューマッハの「スモールイズビューティフル」を引用して、新たなグローバライゼーションのあり方を説いている。それは、グローバライゼーションが、世界の均一化のプロセスではなく、小さなコミュニティが生命体のように有機的につながった、多様性に富む現象だということだ。このHVC、BOP、そして企業と社会起業家といったビジネスに起き始めている変化を、今後も追っていきたいと思う。

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